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浦和地方裁判所 昭和58年(行ウ)12号 判決 1985年8月19日

埼玉県川口市元郷5丁目5番19号

原告

神山文吉

右訴訟代理人弁護士

藤川成郎

埼玉県川口市青木2丁目2番17号

被告

川口税務署長

金井優

右指定代理人

立石健二

外6名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

「1 被告が昭和57年1月26日付でした原告に対する昭和55年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件加算税処分」といい、本件更正処分と併せて称するときは「本件課税処分」という。)を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

一  原告・請求原因

1  原告は、藤木真及び藤木信子にし、昭和55年4月1日、特定市街化区域農地の固定資産税の課税の適正化に伴う宅地化促進臨時措置法2条所定の区域内に所在する別紙物件目録記載の原告所有の土地(以下「本件土地」という。)を代金2,000万円で売り渡し(以下「本件譲渡」という。)、翌56年3月16日、本件土地の譲渡所得については、租税特別措置法(昭和56年法律第13号による改正前のもの「以下措置法」という。)31条の3第1項の適用があるものとして、別表の「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。

2  被告は、原告に対し、昭和57年1月26日、別表の「更正及び加算税賦課決定」欄記載のとおりの本件課税処分をした。

3  本件課税処分の違法性

(一) 本件土地の譲渡時の現況は農地であるにもかかわらず、被告がこれを農地でないとして措置法31条の3第1項を適用しないでした本件課税処分は、違法である。

(1) 原告の父孝十郎は、本件土地を、昭和44年1月1日前から所有し、昭和46年ころまで耕作していた(その後は老齢のため休耕)が、昭和47年2月29日死亡し、原告は、本件土地の所有権を相続により取得した。本件土地は休耕の状態になっていたが、それは孝十郎の遺産にかかる遺産分割審判(以下「本件遺産分割審判」という。)が昭和52年2月19日に確定し、原告が本件土地を現実に占有したのがその後であったという事情による。原告は、昭和53年5月ころから半年位の間に他の土地と一緒に本件土地に道路の高さまで盛土し、その後砂ほこりが飛ぶのを防ぐために本件土地と隣接地の境界に沿ってブロック塀を築造したが、右盛土以外本件土地の形姿に特段の変更を加えておらず、本件土地に上下水道用の配管をしたり、本件土地を駐車用に貸すというようなこともしておらず、転用したことはない。昭和51年10月当時、本件土地が大工の作業所であったのは、神山昌一(原告の兄)が他の相続人の承認を得ずに本件土地を工務店に一時使用させたところ、工務店がここに下小屋を作ったためであるが、抗議して返還させたので、右使用期間は極く短期間のものと考えられ、転用したことにはあたらず、また原告の知らないことであった。本件土地は、土地区画整理に伴い、田から畑となり、本件譲渡時は雑草が繁茂していたが、それは休耕地によくあることで、雑草を除去すれば直ちに耕作が可能な土地であり、本件譲渡時の現況は農地であった。

(2) 土地区画整理事業の目的は、事業区域内の全農地を転用することではないから、同事業終了後も農地は存続する。

(3) 農地と宅地は、物理的には容易に取り変わるものであるが、農地法は、農地の転用を制限しており、転用とは積極的形質変更行為をいうから、かかる農地法の下では、土地は耕作以外の用途に恒常的に供されない限り、農地から宅地に自然に変わるということはなく、農地法所定の届出がなされて後、宅地化が許されるのである。本件土地は、本件譲渡時において、転用していなかったものであり、従って、農地法、措置法上の農地であった。

(4) 原告ら孝十郎の相続人は、本件遺産分割審判の際に、本件土地について「現況宅地」と申述したが、それは相続財産たる各土地の財産としての評価及び共同相続人の何ひとにどの土地を取得させるのが適当であるかの議論の上でのものにすぎない。

(5) ところで、本件土地について、固定資産課税の台帳(以下「台帳」という。)の昭和55年度分には、地目宅地と記載されているが、右項目の記載は、固定資産税の課税標準査定上の判断にすぎず、現況主義に基づく農地性判定の基準となるものではない。

(二) 仮に、本件土地が本件譲渡時に宅地であったとしても、本件土地については、農地法4条所定の届出をして宅地化した場合と同様に措置法31条の3第2項括弧内の規定を適用すべきであり、本件課税処分はこの点において適法である。即ち、措置法31条の3第2項は、特定市街化区域農地の所有者が、当該土地につき昭和48年1月1日以後に農地法4条1項5号の届出をなした後において引き続き当該土地を宅地として所有する場合の土地については措置法31条の3第1項の適用を受ける旨定めている。本件土地の場合、農地法4条1項5号の届出をなした場合ではないが、川口市長が昭和51年に本件土地を課税上宅地として認定したことにより、農地法上農地が宅地に変わるものならば、所有者に転用の届出を要求することはできないと考えられるから、本件土地については、農地法4条所定の届出をして宅地化した場合と同様に措置法31条の3第2項括弧内の規定を適用すべきである。

(三) 原告が、確定申告書に添付した証明書は、昭和48年度の本件土地が特定農地である旨の台帳登録証明書であるが、これは、以下の理由により、措置法31条の3第3項所定の証明書にあたる。

(1) 右証明書は、原告の兄である神山次郎が川口市役所において同条同項所定の証明書の交付を求め、係員の教示に従って申請受領して添付したものである。

(2) 市街化区域農地は、地方税法附則19条の2第1項に定義され、同19条の3に掲げる市街化区域農地は、昭和47年度の固定資産税の課税標準を基礎として算定した単位評価額により区分されるのであるから、措置法31条の3第3項所定の証明書類とは昭和47年度の台帳登録証明書であり、昭和48年度の課税標準は地方税法の規定により地目の変更なき場合には自動的に算出されるので昭和48年度の証明書も添付書類として証明力をもつ。

(3) 措置法31条の3第3項の規定は、大量の事務処理を行うべき課税当局に職権調査義務を課することが酷であるため申請者に証明書類を添付させることとしたものである。農地性を否定している被告が添付書類の不足を理由として、所得税の軽減法規の不適用を正当化しようとするのは不当である。

よって、原告は、本件課税処分取消を求める。

二  被告の認否及び抗弁

認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実のうち、原告の父孝十郎が昭和44年1月1日前から本件土地を所有していたこと、同人が昭和47年2月29日に死亡し、原告が本件土地を相続により取得したこと、本件土地がかつて農地であったこと、原告が本件土地に盛土したこと、ブロック塀を築垣したこと、昭和51年10月ころ本件土地が大工の作業所となっていたこと、川口市長が本件土地を固定資産税課税上宅地として認定したこと、原告が確定申告書に添付したのが昭和48年度の台帳登録証明書であることは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。

抗弁

1  本件更正処分の根拠

原告の昭和55年分の所得税額の内容は、次のとおりである。

<省略>

右項目の内容は、次のとおりである。

(一) 課税総所得金額 0円

右金額は、給与所得16万6,898円から所得控除額合計43万5,554円のうち右給与所得の金額に達する金額を控除した結果0円となったものである(その残額である26万3,656円は分離課税分から控除される。)が、本件訴訟においても原告の争わないところである。

(二) 分離課税長期譲渡所得金額 1,685万1,000円

右金額は、原告がその所有の本件土地を藤木真及び藤木信子に昭和55年4月1日(農地法5条1項3号の届出受理は同年5月10日である。)売り渡したことによる収入金額2,000万円から、取得費100万円、譲渡費用88万4,600円及び長期譲渡所得の特別控除額100万円の合計288万4,600円を控除し、さらに、右控除後の金額である1,711万5,400円から、前記(一)の控除残額である26万3,656円を控除した金額(国税通則法118条1項により1,000円未満切捨て)で、本件訴訟においても原告の争わないところである。

(三) 課税総所得金額に対する税額 0円

(四) 分離課税長期譲渡所得金額に対する税額 337万0,200円

右金額は、本件土地の譲渡が措置法31条1項1号に該当することとなるため、分離課税長期譲渡所得金額に対し100分の20を乗じて算出したものである。

(五) 納付すべき税額 337万0,200円

右金額は、前記(四)記載の税額である。

2  本件加算税処分の根拠について

本件更正処分により、原告が昭和55年分について新たに納付すべきこととなる所得税額は、原告が申告納付した252万7,600円と納付すべき税額337万0,200円との差額84万2,600円となるため、被告は国税通則法65条1項及び119条4項を適用して4万2,100円を過少申告加算税として賦課決定した。

3  本件土地は、措置法31の3第1項の特定農地に該当しない。

(一) 措置法31条の3における「農地」の真義

(1) 措置法31条の3第2項は、特定市街化区域農地の固定資産税の課税に伴う宅地化促進臨時措置法を引用し、同法は地方税法附則を引用するが、同附則も特に「農地」か否かの判定基準を示していないから、その判定は、地方税法の他の規定や農地法の趣旨に照らしてなされることとなる。

(2) 農地法においては、農地とは「耕作の目的に供される土地」をいうものとされており(同法2条1項)、同条にいう農地であるかどうかは、当該土地の登記簿上の地目、主観的使用目的、肥培管理の事実のみをもって基準とせず、当該土地の客観的事実状態、すなわち現況を基準とすべきことは、つとに最高裁判所の判示するところであり(最高裁昭和42年10月27日判決・民集21巻8号2171頁等)、また地方税法388条1項に基づく固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)においても地目の認定は現況によるものとされている。

(3) 従って、措置法に規定されている農地か否かについての判断も当該土地の現況によるべきである。

(二) 本件土地の譲渡時の現況

(1) 原告の父孝十郎は、工場に勤務する傍ら、本件土地を耕作していたが、病気のため昭和39年工場を退職した後は農作業に従事することがなくなり、本件土地を耕作する者は誰もいなくなったため、本件土地は放置されていた。

(2) 本件土地を含む付近一帯は、都市計画上宅地としての使用が予定される市街化区域内に所在するところ、昭和31年から川口市による土地区画整理事業が施行され、農業水路は昭和39年ころ埋立てられ、区画街路が整備され、区画街路には、上下水道や都市ガス設備が設置され、右事業は昭和50年11月ころ完了したが、そのころ本件土地を含む付近一帯は大部分が宅地化し、また本件土地は交通頻繁な場所近くに位置し、宅地として良好な環境の中にある。

(3) 本件土地が、右事業の一環としての道路工事により区画街路よりも低くなったため、昌一はこれを埋立て、また、本件土地は右道路工事の際の残土により自然に埋立てられ、その後も建設残土やごみなどが捨てられたため、原告は、本件遺産分割審判の確定後、本件土地に赤土で区画街路より1m相当の位置まで盛土したのであり、本件土地はその後耕されたことはなく、肥培管理もされず、他人が自動車などを駐車していた。

(4) 昭和49年以後行われた本件遺産分割審判手続において、原告は、本件土地を含む孝十郎の遺産の土地がいずれも現況宅地である旨述べ、確定人は、昭和51年10月1日当時の本件土地の状況が「大工の作業所」であり、「街路条件、周囲の状況から日用品小売店舗用地としての使用が最有効と認められる」としている。

(5) 川口市の台帳によれば、本件土地の地目は、昭和51年度以降宅地として登録されており、右課税上の地目は川口市長が固定資産税を賦課するにあたり、必ず現地を調査したうえ、当該土地の地目を所定の台帳に登録している信頼性の高いものであるから、特段の事情がない限り、各年度における当該土地の現況と符合しているとみるのが相当である。また、原告は、右登録に対して何ら不服を申し立てていない。

(6) また、本件土地は、譲渡当時、雑草が繁茂して、耕作できる状態ではなく、周囲の環境等に照らし再び農地として使用される蓋然性はなかった。

4  本件譲渡に措置法31条の3第2項括弧内の規定を準用することは許されない。

措置法31条の3第2項括弧内は、農地法4条1項5号の届出がされた場合に限って宅地を農地として扱うことを特別に認めている制度であって、準用すべきではない。

5  原告は、昭和55年分所得税の確定申告書に措置法31条の3第3項に規定する証明書類を添付しなかったから、同条1項の適用を受け得ない。即ち、右証明書類は、当該土地を譲渡した時に当該土地が特定農地であることを証明するものであることが必要なところ、原告が提出した証明書類は、昭和48年分当時に本件土地が特定農地であることを証明するものにすぎず、原告は同条3項に規定する証明書類を添付しなかったものである。

川口市係員は、原告の兄神山次郎が何年度の証明書でもよいから、本件土地が農地であることの証明が欲しいとの申し出に対し、台帳の記載が農地となっている年度の証明書を発行したにすぎない。

第三  証拠

本件の証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件更正処分の適否

1  課税総所得に対する課税

原告の昭和55年分の給与所得が被告主張のとおり16万6,898円であり、これから所得控除額合計43万0,554円のうち右給与所得の金額に達するまでの金額を控除した結果、課税総所得金額が0円であり、これに対する所得税額が0円であることについては、被告の自陳するところであるから、本件においてこれを前提とするを妨げない。

2  長期譲渡所得に対する課税

孝十郎が本件土地を昭和44年1月1日前から所有していたこと、孝十郎が同47年2月29日死亡し、原告が相続により本件土地を取得したこと、原告が、藤木真及び藤木信子に対し、昭和55年4月1日、本件土地を代金2,000万円で売却したこと、本件土地を譲渡したことにより取得した課税長期譲渡所得金額が右譲渡代金2,000万円から取得費100万円、譲渡費用88万4,600円及び長期譲渡所得の特別控除額100万円合計288万4,600円を控除した金額からさらに所得控除額の残額26万3,656円を控除した金額である1,685万1,000円(国税通則法118条1項により1,000円未満切捨て)であることは、原告が昭和56年3月16日別表「確定申告」欄記載のとおり確定申告をし、その後もこれを争っていないことは、当事者間に争いがなく、あるいは、原告の明らかに争わないところであるから、本件においてこれを前提とするを妨げない。

3  ところで、原告は、本件土地は、本件譲渡時において措置法31条の3第1項にいう「特定市街化区域農地等」に該当するから、本件譲渡による譲渡所得に対する課税については、同条項が適用されるべきである旨主張するが、原告の右主張は以下に述べるとおり理由がない。

(一)  原告は、本件土地はその譲渡時の現況も農地であり、これを宅地とする被告の認定は誤りである旨主張する。

およそ【A】ある土地が、措置法31条の3第1項の特定市街化区域農地等の「農地」であるためには、それが現に耕作されている田若しくは畑であるか、または、現に耕作されていない状態にあっても耕作するつもりになれば、いつでも簡単に耕地として復旧しうる田若しくは畑であることを要すると解すべきところ(措置法31条の3第2項、特定市街化区域農地の固定資産税の課税の適正化に伴う宅地化促進臨時措置法2条、地方税法附則19条の2第1項、17条1号、農地法2条1項参照)、本件土地の譲渡時の状況についてみるに、原本の存在及び成立に争いのない甲第6号証の1、2、乙第12、第13号証及び成立に争いのない乙第5号証の2ないし4により本件土地を撮影した写真であることが認められる甲第10号証(昭和50年1月12日当時のもの)及び乙第5号証の1(昭和54年10月20日当時のもの)並びに証人神山次郎、同神山昌一の各証言及び原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すれば、原告の父孝十郎は、生前工場に勤める傍ら昭和39年ころに本件土地が水利を失うまで本件土地を田として、その後はこれを畑として耕作していたが、けい肺を患ったため、遅くとも昭和43年か昭和44年ころには耕作を止めてしまい、その後本件土地は耕作に供されなかったこと、本件土地を含む周辺一帯は、昭和35年ころから川口市による区画整理事業が実施されたが、本件土地は右区画整理事業の一環としての道路工事の際の残土により、自然と埋立てられ、その後も建設残土が捨てられていたこと、孝十郎が本件土地を管理できなくなってから本件遺産分割審判の確定(昭和52年2月19日)後に原告が現実に本件土地を占有するまで本件土地を管理していた昌一(原告の兄)が、孝十郎の死亡後2年足らずの間、本件土地を原田工務店に物置場として貸し、同工務店は本件土地上に下小屋を作り、大工の作業所としていたこと、その結果、本件土地は、本件遺産分割審判事件の申立人ら(原告はその一人である。)がその手続において昭和51年6月、相続財産の各「土地はすべて現況宅地であり、」また、「かつてこれらの土地は農地として農業生産の手段に供されていたが、いまはその面影もない」と申述したような状態の土地の一つになったこと、同審判における鑑定では、その評価時である同年10月に川口市元郷5丁目5番12の土地(成立に争いのない甲第2第3号証によれば、本件土地は昭和55年3月28日の分筆まで、右5番12の土地の一部であったことが認められる。)は舗装公道と等高に接面し大工の作業所であったとされていること、本件遺産分割審判確定後に原告は本件土地を現実に占有したが、昭和53年5月ころから半年の間に、前記大工の作業所としての使用及び埋立てにより簡単には耕地として復旧できない状態にあった本件土地に更に、自らの意思により次郎(原告の兄)をして赤土で盛土させたこと、その他には本件譲渡まで、本件土地に特段の変更を加えず放置していたことが認められ、証人神山次郎の証言及び原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用することができず、また成立に争いのない甲第5号証、乙第1、第9号証及び弁論の全趣旨を総合すると、川口市においては、昭和33年から固定資産税の課税のための調査を3年ごとに行い、台帳に現況の記載をなし、肥培管理がなされていない場合農地以外の地目にしているところ、昭和47年度と昭和48年度の各台帳の「現況」欄には、川口市元郷町1丁目596番1の土地(前記甲第2号証によれば、右596番1の土地は区画整理による換地処分の結果川口市元郷5丁目5番12になったものでこれと同一の土地であることが認められる。)について、「田」との各記載があり、同51年度(現況調査の実施の年に当たり、このときの調査は昭和50年9月20日の元郷町における区画整理完了後なされたものである。)台帳の「現況」欄においては右5番12の土地について、「宅地」との記載がされていることが認められる。他に以上認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実を総合すると、本件土地の本件譲渡時における現況は、前述の意味における農地とは認め難く、却って、農地ではなかったことを認めることができ、従って、本件譲渡による譲渡所得に対する課税については措置法31条の3第1項の適用はないというべきである。

(二)  なお、原告は、農地法所定の届出がなされた後でなければ宅地化は許されないから、その現況にかかわらず本件土地は本件譲渡時には法的には宅地ではなかった旨主張するが、農地か否かはその現況に即して判断されるべきであるから、原告のこの点の主張は採用できない。

4  更に原告は、仮に、本件土地がその譲渡時に宅地であったとしても、本件土地については、農地法4条所定の届出をして宅地化した場合と同様に措置法31条の3第2項の規定を適用すべきである旨主張するけれども、同条同項括弧内は、農地法4条1項5号の届出がされた場合に限って宅地を農地として扱うことを特別に認めている制度であって本件譲渡について法条の文言を無視してまで同条項の特典を与えなければならないいわれはなく、右見解は独自の見解であり、採用のかぎりでない(なお、本件土地については、原告が川口市長に対し、固定資産税の課税につき台帳宅地とされることを進んで申出たものでもない。)

5  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件譲渡による譲渡所得については、措置法31の3第1項の適用はなく、前記2(一)(二)の事実に基づき、措置法31条1項が適用されるべきところ、その課税長期譲渡所得は4,000万円以下の場合であるから、同条同項1号に該当し、同号に従って算定した原告の昭和55年の所得税額は、337万0,200円となるので、これと同一の結論をとる本件更正処分は、適法である。

三  本件加算税処分の適法性

本件更正処分により原告が新たに納付すべき所得税額は、前記二5の金額から前記争いのない原告の申告納付した金額を差し引いた額84万2,600円となるところ、同法65条1項に基づき、右金額の100分の5に相当する金額(同法119条4項により100円未満切捨て)の過少申告加算税が課されるべきであって、本件加算税処分は適法である。

四  結論

以下の通り、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山晨 裁判官 松井賢徳 裁判官 原道子)

物件目録

(譲渡時の不動産登記簿上の表示)

川口市元郷5丁目5番25

畑 116m2以上

別表 課税処分の経緯(昭和55年分)

<省略>

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